• 山縣太一インタビュー

    • インタビュー | 林瑞絵

    —— 母の墓参りを欠かさぬ心根の優しい次男・由起夫を演じるのが、チェルフィッチュの看板俳優、山縣太一だ。

    山縣太一
    「振り付け師がいるわけではなく、動きは自分で考えている。僕の身体表現で、地面の下の世界を感じてもらいたい。下からくるエネルギーが体に伝わり、また下に戻るという漠然としたイメージ。背骨や尾てい骨をよく活用し、そこに手足の四肢がうまく揺れていけばいいと。誰かなのだけども、自分ではない。“仲介者”という感覚が、常にある。」

    —— その姿は冥界の橋渡しをするシャーマンを思わせ、地面を這う動きは、野性動物にも似ている。魂の所在さえ怪しげな佇まいは、観る者の心をざわめかせる。

    山縣
    「意識して取組んでいるのは、言葉が伝わらない時の身体の動き。言葉じゃない部分で、強い表現が伝われば。今回は佐々木さんがベースで、俺がドラムという役回り。僕たちが物語に深みと幅を与えるグルーヴを担当している。」

    —— 『地面と床』は「震災後の近未来の日本」という設定だが、3・11直後に知人を頼って移住も経験した山縣も、震災で生活が大きく変わったひとり。だが意外にも、“震災後の作品”という意識は持ちたくないと語る。

    山縣
    「演劇に、震災以前・以後の括りは必要ない。もともとチェルフィッチュは時事ネタもやっていたし、今さら大義名分はいらない。とにかく日本の演劇が今できる限りの最先端をやってるつもり。言葉やテーマは重くても、印象は重くないものをやりたい。それはできてるんじゃないかな。」

    山縣太一

    山縣太一

    1979年横浜生まれ。
    2001年からチェルフィッチュのほぼすべての作品に出演。
    また振付家・手塚夏子の一番弟子。音楽家・大谷能生とのユニット「ライン京急」では作・演出・振付を担当。実際の家族で構成される劇団山縣家では主宰も務める。日常の無自覚で豊かな身体を自覚的に舞台に載せる太一メソッドの第一人者。震災以降山口県に移住。山口県や愛媛県などでの演劇のワークショップを行う。

    page top

  • 矢沢誠インタビュー

    • インタビュー | 林瑞絵

    —— 夫であり、長男であり、もうすぐ父にもなる男。とかく人の念を受けやすい立場の由多加に扮するのが、矢沢誠だ。揺れる心のありようは、重心さえも不安定な背中からも伝わる。

    矢沢誠
    「(演じる)方向は関係ない。どこを向いてしゃべろうが、正面も頭の後ろもすべての働きがイーブン。岡田さんは観客にいかにダイレクトに伝わるかを探している。そこがチェルフィッチュ(chelfitsch)の芝居の独特の面白さでもあるけれど、本来演劇はそういうものだとも思う。」

    —— チェルフィッチュの代表作『三月の5日間』(Five Days in March)を見て衝撃を受けた。『地面と床』は3作目の参加。福島県出身の彼にとって、特に大切な作品となりそうだ。

    矢沢
    「個人的にもすごい共感できる部分がある。『大丈夫なのか、日本は?』と思う気持ちが、自分の中でも日に日に大きくなってきているし。劇中では厳しい台詞もあるけれど、何の違和感もない。言い過ぎだとも思わない。ちゃんと考えれば、そりゃそうだと。」

    —— 矢沢の両親の実家は、原発10キロ圏内の浪江町にある。先祖代々の墓もあるのだが、立ち入り禁止区域で墓参りに行きたくても行けないというジレンマを抱えている。

    矢沢
    「死んだおじいちゃん、おばあちゃんたちはどういう風に思っているのかなと、さらに考えるようになった。でも本作は、僕の中では希望のようなものともつながっている。最終的に自分の中から沸いてくるのは、ネガティブよりポジティブな個人的な感情。やっぱりそっちに向かっていきたい。」

    矢沢誠

    矢沢誠

    1972年福島県生まれ。
    横浜市立大学在学中より演劇を始める。
    卒業後一年間の新聞社勤務を経て、NODA・MAP「ローリング・ストーン」に出演。以降、宇宙レコード、ミクニヤナイハラプロジェクト、カムカムミニキーナ、遊園地再生事業団、本能中枢劇団、デラシネラなどに出演。ダンス公演では、ニブロール、安藤洋子振付作品などに出演。チェルフィッチュには『わたしたちは無傷な別人である』に出演。

    page top

  • 佐々木幸子インタビュー

    • インタビュー | 林瑞絵

    —— 遥の夢の中に現れるさとみは、社会から隔絶し、引きこもりのように暮らす過去の友人だ。チェルフィッチュ(chelfitsch)の看板娘こと、佐々木幸子が挑む。

    佐々木幸子
    「私は基本的に飛び道具や、物語のスパイスとなる役が多い。でも自分の役柄についてはなるべく考えない。器用なタイプではないので、言われたことしかできない。まずは書いてある通りにやろうと。今回演出家の要求としては、とにかく音を聞いてと言われた。」

    —— 彼女のパートは音とリズム、言葉と身体との“攻め”のセッションがスリリング。舞台の中心には、墓標のように闇に浮かぶ十字の字幕。滅びゆく日本語の話者として、字幕に映る日本語が自身の台詞に追いついてこないと苛立ち、なじる。

    佐々木
    「さとみは『どうせ私の言うことは伝わらない』と、日本語で訴える。海外ならいいけど、日本では意味に矛盾が出てくるから、客席から“はてなマーク”が飛んでいるのがわかる(笑)。逆に演じるこちら側が心持ちを変えないと、うまく伝わらないかもしれない。だから日本で上演する時は、私の方がガイジンになったくらいで演じるつもり。」

    —— 凱旋公演の横浜では、佐々木のガイジン化したパフォーマンスに期待したい。さらに彼女は付け加える。

    佐々木
    「チェルフィッチュはちょっと難しいと思われがちだし、こねくり回して考える批評家もいる。でもカッコいい役者さんも可愛い役者さんもいる。衣装だって可愛い。そういう理由でよいので、ぜひ気軽に見に来てほしい。」

    佐々木幸子

    佐々木幸子

    1979年千葉県生まれ。
    日本大学芸術学部在学中から演劇活動を始める。2004年より野鳩に劇団員として所属。近年では、ポツドール、シベリア少女鉄道、ナカゴーなどの公演に参加。また、ヒップホップ的手法が特徴の東葛スポーツでは、ラップも刻むなど旗揚げから全ての作品にメインキャストとして出演。チェルフィッチュには、2010年『わたしたちは無傷な別人である』、2011年『ゾウガメのソニックライフ』、2012年『現在地』、『女優の魂』、2013年『地面と床』に出演。

    page top

  • 安藤真理インタビュー

    • インタビュー | 林瑞絵

    —— 舞台の上手には、煌々と青白い光を放つ墓。その下には骨の寄せ集めとなった母・美智子が眠る。いや、正確には眠らない。生者を憂い、今も彼らの横に立ち続ける。そして時々は自分を思い出し、墓にかぶさる土を手入れしてほしいと訴える。ふんわりと死者の輪郭をまとい、生者と淡々と対峙する幽霊役の安藤真理。観る者に「死者の権利」という新しい視点を導入する重要な役回りだ。

    安藤真理
    「前作『現在地』に続いて『地面と床』も震災の影響を受けた作品だと思う。でも自分がテーマについて話すことに興味がない。見た人が何か感じてくれればいい。それよりも演じる側として、良いシーンがあったかどうかが気になる。」

    —— 今回『地面と床』の大きな見どころが、岡田が提唱する「音楽劇」。当初はライブ演奏での上演もあったが、結局は録音の音源が使われることに。

    安藤
    「舞台裏で生演奏していると勘違いする人もいるみたい。それは、音楽の力に因るところが大きいが、演じ手も流れてくる音楽をちゃんと生モノとして扱えているからではないかと思う。」

    —— 音楽は単なる彩りではなく、劇と対等にそそり立つ、ツートップの一角。岡田が目指す「音楽劇」の境地に、安藤も確実に近づいている。

    安藤真理

    安藤真理

    1979年兵庫県生まれ。
    2006年伊丹アイホールにて岡田利規ワークショップ&パフォーマンス「奇妙さ」に参加。
    以降2008年『フリータイム』、2009年『記憶の部屋について』(金沢21世紀美術館「愛についての100の物語」)、『ホットペッパー、クーラー、そしてお別れの挨拶』、2010年『わたしたちは無傷な別人である』、2012年『現在地』に出演。

    page top

  • 青柳いづみインタビュー

    • インタビュー | 林瑞絵

    —— 死者の気配は感じている。だがお腹に宿った命のためにと、死者の存在に目をそらし、その声に耳を塞ぐ。夫を置いて、日本を棄てることさえ厭わない。時にドライにも見えるのが、青柳いづみ扮する長男の嫁・遥。『地面と床』(Ground and Floor)一番の汚れ役とも言えそうだ。

    青柳いづみ
    「しんどい。特別身体を使うわけではないのに、演じていて疲れる。自分の意見を言うシーンでは正面を向いているから、お客さんの顔がよくわかる。中には、すごく嫌な顔をして見ているお客さんもいる。かなり打たれ強くなったと思う。」

    —— そんな彼女が「演じる上でとても助けられた」と語るのが、"BGM"というより、むしろ"共演者"に近い存在だという、バンド・サンガツの音楽。天界から音の粒子が降り注ぎ、舞台という荒野に立つ彼女を柔らかく包み込んでいる。さらに岡田利規の発案で、稽古中には斬新な試みもあった。

    青柳
    「週に一回、役者はロルフィング(身体構造に働きかけるボディーワーク)を専門とする先生を呼んで、解剖学のレクチャーを受けた。例えば足を足と捉えるだけではなく、中まで見れば骨が何十個にも分かれていることを教えてもらう。こんな事実を知るだけで、身体への意識が変わることに驚いた。」

    —— ここで吸収した知識をいかに演技に昇華できるのか、今も日々格闘が続くという。欧州公演の経験を糧に、満を持した凱旋公演となる横浜では、さらに打たれ強くなった現在進行形の青柳がステージに立っているはずだ。

    青柳いづみ

    青柳いづみ

    1986年東京生まれ。
    チェルフィッチュには2008年『三月の5日間」ザルツブルグ公演より参加。
    2007年岡田が非常勤講師を務める桜美林大学で行われた講演、桜美林大学パフォーミングアーツプログラム『ゴーストユース』、2009年『記憶の部屋について』(金沢21世紀美術館「愛についての100の物語」)、2010年『わたしたちは無傷な別人である』、2012年『現在地』に出演。

    page top