• 平成二十五年九月十五日

    • From : Rotterdam

    目ざめると外は雨模様。朝食食べて、本読みながらお風呂入って、出てからもぼおっとして、そのうちに出発時間の十二時になる。

    お迎えの車にみんなで乗って空港へ。ジュネーブ滞在中のためにもらっていた日当の枠内でなんとかやりくりできた。手元の残金は二十スイスフラン(ちょっとだけヴェルヴェットアンダーグラウンドの歌詞意識してみた)。他のメンバーはジュネーブではほとんど出費をしなかったという人が大半。みんな百六十とか二百とか残ってるらしい。物価が高すぎてレストランとか入るのがばからしくて、連日ケバブとか食べてりゃいいやって気になった、とか。なるほど、そういう考え方もあるよな。僕もスイスの物価ってばからしいと思ってしまうのは同じだけど、僕の場合はその結果、スイスフランを円とかユーロとか他の通貨と比較して考えるということじたいをやめてしまうことにした。つまり日当を残さず使う、そしてATMで現金を引き落としたりも絶対にせず、後腐れなくスイスを発つ、という作戦。そしてこの作戦は無事に成功を遂げた。
    ジュネーブからアムステルダムは一時間十五分程度の飛行時間。アムスのスキポール空港に着くと、ときどき、雲がずいぶん低い位置に浮かんでるような印象をうけることがある。こないだのジュネーブ行くときの乗り換えで立ち寄ったときも思ったし、今日もそう思う。あのくらい雲が低いと、もしかしたらもうちょっとがんばるとあそこまで背丈が届くんじゃないかって気になるんじゃないか、それが理由でオランダ人の背はあんなに高くなったのではないか、、、なんてしょうもないことを考えたりする。両替所で二十フランを十一ユーロに交換する。
    空港からロッテルダムまでは電車で移動した。四十分くらい。実は僕、生まれて初めての海外旅行がオランダだった。大学卒業した年の秋に、ほんとーになんのあてもなく、オランダとベルギーを二週間ふらふらしたのだった。たぶんそのときもこの電車に乗ったはず。途中、デン・ハーグ駅に電車が一時停止したとき、そういえばあのときこの街にある「パノラマ・メスダッハ」って美術館に行ったなあ、と思いだす。この美術館のことを、平田オリザさんが『現代口語演劇のために』という本のなかの(確か)冒頭部分で書いてる。このパノラマ風景画のような演劇を私はやりたい、というような文脈で。その本を読んだ影響で見にいった二十三年前の僕。それだけのためにオランダに行ったわけじゃないですけどね。なんだか、ちょっといい話を書いてしまいましたね。
    そのときの旅行では寄らなかったので、今回が初めてのロッテルダムになる。建築が有名、くらいのイメージしか持ってない僕。駅から十五分くらい、スーツケースをごろごろ言わせながら歩いてホテルに到着。ホテルの界隈だけ、雰囲気がちょっとニューヨークのマンハッタンっぽい。
    空腹。有志で夕食に。ベトナムレストラン。夏に日本国内をツアーした一人芝居『女優の魂』の打ち上げも兼ねて。ここの料理はものすごくおいしかった。

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  • 平成二十五年九月十六・十七日

    • From : Rotterdam

    こんなことはとても珍しいけど、ツアー中に二日間のオフ。僕はこの二日間は作家生活を送る。夕方までホテルにこもって執筆。部屋で書いたり、ラウンジで書いたり。で、夜になったらなんかおいしいもの食べに行くぞ、という。なので、特筆すべきことがありません。夕方になったらジョギングとかしようかなと目論んだりしてたけど、雨が降っててやめてしまったし。

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  • 平成二十五年九月十八日

    • From : Rotterdam

    スタッフは朝から劇場入りして仕込みを開始。僕は午前中はホテルで書き仕事。昼頃にお腹が空いたアンドどこか別の場所でメール書いたりしたくなったので、劇場のそばのカフェに。WiFi が使えるって書いてあるんで入って見ようとしたら、Facebook 上のそのカフェのページに「いいね!」を押したら使わせてあげるよ、という仕組みになってて、こういうのあるんだな、ふーん、と思った。

    『地面と床』は技術的な準備に時間がかかる演目なので、仕込み一日目は役者込みの場当たりはやらない、という方針が定まりつつあるけれど、ここロッテルダムでは二日間もオフがあったので、リハビリ的な意味も込めて夕方から無理めに通し稽古をすることにしていたが、やってみたら案の定、かなり無理だった。巡業のときって受け入れ側のテクニカルの人たちの力の如何が進捗に大きく影響するけれど、そういうアレの影響もあって、通し稽古に照明や音響はまったく本番仕様ではつきあえず。でも、今日一度通しをできたことは絶対によかった。というか、今日通しをやらずに三日間のブランク空けていきなり本番、というのはちょっと怖すぎるから。。。

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  • 平成二十五年九月十九日

    • From : Rotterdam

    今日は僕らの初日であり、同時にここのフェスティバル festival de keuze のオープニング。制作の黄木さんから聞いたことだけど keuze というのは「選ぶ」的な意味だそうで、レストランのメニューで keuze 云々って書いてあるとそれは、ドレッシング下記の中から選べます、とかそういうことらしい。

    午後から本格的な場当たりが始まるので、その前に腹ごしらえ、と思って少し早めに劇場に出向いて一階のカフェに入ろうとしたら「岡田さん」と声を掛けられて、誰かと思えば高山明さんだった。彼もこのフェスティバルに、福島の子どもたちに共通の質問をインタビューした映像のインスタレーションで参加している。
    で、高山さんと一緒にランチ。福島を扱う作品をここ数年手がけている高山さんからそうした活動にまつわる話をいろいろ聞けて有意義だった。高山さんは問題、たとえば福島の問題を、直に作品にしてる。いっぽう僕は、この『地面と床』にしても、前作『現在地』にしても、直にではなく、フィクション化してる。違うことをしてる人の話は、それだけでおもしろいですよね。
    二時から場当たり。ときどき止めながら最初から最後まで流していく。途中でワイヤレスマイクから、耳を聾するかという爆音ノイズが生じる。たぶん混線を起こしたみたいだけれど、原因が突き止められない。ただしそれ以降、電波状況をずっとチェックしても、ノイズはあらわれなかった。
    一階のロビーはオープニング的な雰囲気で浮かれ始めていた。フェスティバルのディレクターのマークにやっと会う。彼はイギリス人で、もうひとつオランダの、グローニゲンという小さな街でやってるフェスティヴァルのディレクターもやってる。グローニゲンには三年前に行かせてもらって滞在制作した。『私たちは無傷な別人である』という作品の仕上げをそこで行った。今回はロッテルダムに呼んでくれた。
    このとき、ブラジル人振付家、マルセロ・エヴェリンの一行にも会った。ブラジルの三都市で公演してから今朝ここに来たとのこと。想像しただけで疲れてきそう。南米に行ったことないから、めちゃくちゃ遠そう、っていう感覚しかないのでなおさらそうなるのかもしれない。
    そしてこの日の本番ですが、昼間の大音量ノイズが、なんと、本番でも生じてしまった。。。一同ショックでした。というわけでこの日の日記は、以下割愛。

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  • 平成二十五年九月二十日

    • From : Rotterdam

    寝て目ざめれば気分というのは大抵、ましになっているものである。

    十時からスカイプで、オーストラリアの演劇学校の人とミーティング。来年の夏、数日間、行くことになる模様。
    十二時から、カナダのモントリオールの、フェスティヴァル・トランス・アメリークのディレクター、マリー・ファルコンさんと一緒にお昼ご飯食べる。黄木さんも一緒。ホテルに併設されてる「パラマウント」っていう中華料理。つい数日前に、彼女が創設し以来三十年間務めてきたこのフェスティヴァルのディレクターを来期で退任するというニュースが流れてきてたばかり。後任者は公募で決めるとのこと。やめてから何をするかは、何も決めていないらしい。しばらくはゆっくり休んでください。
    劇場前の広場に、高山さんのインスタレーションのための仮説の小屋がブリキで建てられている。十五分間くらいだったかな、これを見た。このインタビュー映像をヨーロッパの観客がどんな視点から、どんな距離から見るのか、考えたらくらくらしてしまった。遠く離れた場所の、かわいそうなティーンエイジャーとして見られてしまうのだとしたら、それはすごく悔しい、と思った。混乱して、会場を出る。
    この作品についての、深刻なのじゃなくて、ちょっと軽めの話題。そのインタビュー映像では「好きな景色はありますか?」「好きな人はいますか?」とかから「総理大臣になったらなにをしますか?」「日本は将来戦争をすると思いますか?」とかまで、いろんな質問がされるのだけれども、僕が面白いと思ったのは「朝食は何を食べましたか?」という質問。子供たちはだいたい「ご飯を食べました」「パンを食べました」と答える。まあ僕だって、訊かれたらそんなふうに答えるだろうな。なぜおもしろいと思ったかというと、この質問、日本語では、というか日本では僕ら、「朝はご飯とパンのどちらを食べましたか?」というのと限りなく近い意味で使ってるんだなあ、ってことに気づいたから。
    六時から一時間ほどリハーサル。きのうくらいから、僕の中で、来週の京都公演が視野に入ってくる。国内での公演は特別で、しかも初演なので、どきどきする。これまでやってきたのとまったく同じ仕様で国内でもやる、と思っていたけど、ここにきて、ほんのちょっとのカスタマイズはしようかな、と思いはじめた。でも、あくまで最小限に。
    今夜はさっき一緒にお昼食べたマリーも来てくれたし、こないだまでウィーンのフェスティヴァルのドラマトゥルクで今はフランクフルトの劇場に移ったマティアス・ピーさんも来てくれた。ブリュッセルから車に乗ってクンステン・フェスティヴァル・デ・ザールのクリストフとアシスタントのエヴァも来てくれた。僕は本番中、ノイズ起きませんように起きませんようにと祈りを唱える。こんなことしたの初めてだよ。で、その甲斐あって今夜はノイズ、起きなかった! 嬉しい! ってこれが普通のことなんですが。その緊張感が功を奏して、というわけでは決してないはずだがパフォーマンスもよかった。どちらかというと、京都に向けての意気込み、みたいなのがあったんだと思う。
    さあ、これでとりあえずはいったん帰国。一階のロビーのバーでクリストフがうちらみんなに一杯おごってくれた、というかその実質は半ば強引にうちらにおごらされたというか。来月パリにまた見に来るとのこと。この作品のこと好きみたい。来年のクンステンのプログラムの話も聞いた。
    マークにも挨拶して、劇場を辞去して、腹が減っていたのでまた「パラマウント」に。先に来ていたメンバーたちと合流。ここ、安くておいしくて、よかった。

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