• 平成二十五年十月十九日

    • From : Paris

    午前中は書き仕事。午後、マルセイユの劇場のディレクター、ユベール・コラさんとのミーティングのために、先方から指定されたウェプラーというカフェへ出向く。ユベールさんは『地面と床』をジュネーブで見てくれている。もろもろ実際的な話と、僕の現在もっているいろいろな構想の話と。終わって、でも僕だけこのカフェに残る。この次に別のひとたちと会う予定があって、その場所もこのカフェにしていたから。
    今回が僕にとって四回目のパリで、パリってなんとなく来るたびに愛想良くなってる、親切になってると感じている。でも、ここみたくまだおフランスなカフェもあるんだな、とある意味では僕はホッとしたというか、なにが言いたいかというと、ここの店員の態度お高くとまっててまじむかついた、ということなんだけど。ペリエをグラスに注ぐだけなのにこれみよがしな鼻歌歌いながら、あきらかにこちらを馬鹿にした態度で注ぐ、というみごとなレイシスト(と断定しちゃっていいと思うよあれは)っぷりを披露、まったく、これこそガラパゴスだよ、こんな種、パリのカフェなんてところ以外の生態系じゃ生き延びられようがない、即絶滅だよ、このガラパゴス・ギャルソンが、ガラギャルが、などとねちねちひとりごちる僕。
    しかしまあ、ならばこうも言えるかもしれない、愛想良くなってしまっていくパリの中で、その趨勢に抗うかれらは絶滅危惧種なのであり、護られなければならない、と。その昔パリで開かれた万博で「土人」が「展示」されたように、このギャルソンもどっかで展示されたらいいんじゃないかな。というわけでパリにご旅行の際は、プラス・ド・クリシー Place de Clichy 駅そばのカフェ・ウェプラー Café Wepler はお薦めです。
    次に会ったひとたちは、マリオンさんとギレルモさんというご夫婦。ギレルモさんは劇作家であり、スペイン語からフランス語への翻訳者でもあるひと。マリオンさんは演劇の研究者。平田オリザさんのフランスでの仕事でドラマトゥルクをしたこともあるらしい。マリオンさんが来年の四月に、ブエノスアイレスで開かれる現代演劇関係の一週間くらいのセミナーに招かれていて、そこで僕の芝居のことをお題にしたセッションをやろうとしているということで、いろいろ根掘り葉掘りインタビューされて、楽しかった。マリオンさんはジョエル・ポメラという劇作と演出とどっちもやるアーティストのドラマトゥルクもやっているひとで、このジョエル・ポメラという名前、そういえばフランスにいるとき、よく聞く。現代フランス演劇を代表するアーティストのひとりのようです。これまで聞き流していた名前だったけど、このときようやく、ひとつの固有名詞として僕のなかで定まった。来年は『ホットペッパー、クーラー、そしてお別れの挨拶』の続編的な、労働環境を題材にした新作をつくる予定なんですけど、というと、数年前にジョエル・ポメラもそれと同じテーマで作品をつくったらしい。いつか彼の芝居を、見てみたいな。マリオンさんもギレルモさんも、ガラギャルの失礼な態度はいやだって言ってて、あ、フランス人でもやっぱりいやなのか、と知ってそれには正直、癒やされたというか溜飲が下がった。
    ふたりと別れてジュヌヴィリエへ。青年団のメンバーで、フランスのリールに住んでて、僕らがパリとかブリュッセルで公演するときはテクニカル・アシスタントとして助けてくれる、今回も助けてもらってるハリーさんに、ジョエル・ポメラって今キテる人の芝居みたことありますかって聞いたら、今っていうかもうだいぶ前からキテるけど、何度かみたことあるけどおもしろい、とのこと。三年前にブリュッセルで『わたしたちは無傷な別人である』をやったとき、おなじ劇場の別の会場で、ジョエル・ポメラ演出作品の出演者オーディションをやってたんだけどおぼえてないですか、とハリーさんに言われるも、全然おぼえていませんでした。
    開演前の時間に、地上階にあるカフェにいく。ここのシェフ、アブドルにようやく、ジュヌヴィリエ最終日にして挨拶できた。彼の料理を食べないと、ジュヌヴィリエに来たことの画竜点睛を欠いてしまう。終演後に食事はできるか尋ねたら、大丈夫だと言ってくれた。羊のすねを煮たやつなんかどうか? と提案され、おいしそうだからそれを予約。
    そして数日ぶりに立ち会う『現在地』、パリ公演の千秋楽。来月末にある東京での公演のことに思いをはせながら見る。この芝居が今の東京でお客さんに何を引き起こすことができるのか、今の東京のお客さんがこの芝居をみて何か引き起こすことができるのか。それはとにかく、やってみなくちゃわからないのだけど。
    終演後カフェへ。劇場が打ち上げ的なセッティングをしてくれていた。僕は羊肉のかたまりをほおばる。お客さんもいろいろ残ってくれて、なかには日本人のお客さんもちらほらいてくれて、和やかな雰囲気の打ち上げだったな。
    こうしてパリでの公演はふたつとも終了。あしたはベルリンに移動。

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