• 平成二十五年十月七日

    • From : Paris

    朝、ホテルでスカイプ。ダンサーの池田扶美代さんと、ジャーナリストの岩城京子さんと。このスカイプがおわったら、扶美代さんはブリュッセルからオーストリアのグラーツに向けて出発だそう。山田うんさんとのデュオの新作『amness』の初演のために。十二時半、ホテルのロビーに集合。タクシーで空港へ。十五時出発のエールフランス、パリ行きの便。二時間乗って、到着は一時間時差があるので十八時。空港にはフェスティバル・ドートンヌ(秋の芸術祭)の制作のディディエ(ぼくの独断では、トロ・イ・モアをシックにした感じのルックスを、彼はしている)が迎えに来てくれていた。ここからもタクシーで、モンマルトルのアパートメント・ホテルまで。ドートンヌに参加するときは宿泊先はいつもここ。なによりここのいいところは、キッチンが付いていること。みんなハッピー。ムーラン・ルージュっていう有名なキャバレーのすぐそばにあって、ようするに歓楽街なので、治安は最高にいい、というわけではない。五年前のドートンヌ参加のときには、深夜にクラブに遊びに行って朝方ぼこぼこに殴られた、なんて人もいた。ま、でも普通に気をつけてたら別に大丈夫ですよ。到着早々、スーパーマーケットに買い物にいく人が多々。僕も行く。鴨の肉とか、ついかごに入れてしまう。買ってきたものの一部を早速つかってトマトソースのパスタとか野菜のオイル煮とかつくって夜ご飯。

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  • 平成二十五年十月八日

    • From : Paris

    技術スタッフは朝から『地面と床』の仕込みのために会場のポンピドゥー・センターへ。僕はこの日は一日部屋で執筆にいそしむ。来週上演する『現在地』の出演者である七人の女優のうち『地面と床』にも出てくれてるからすでにこっちにいる三人以外の女優四人が夕方、日本からここに到着。そのなかの石橋さんと上村さんに、ホテルの廊下で出くわす。

    そのあとスーパーにいく。夜十一時まで仕事してるスタッフさんのために夕食をつくっておこうと思ったのだった。台所仕事は十時過ぎくらいからぼちぼち開始。で、スタッフがホテルに戻ってきたのは十二時を回ってからだった。だからみな疲れきっていて、そのまま眠りにつく人が大半。照明の大平と音響の大久保さんは食べにきてくれたけど、結構大量につくったので、大量にあまる。ま、あした以降自分で食べればいいのでなにも問題ないです。

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  • 平成二十五年十月九日

    • From : Paris

    ホテルの近くのプラス・ド・クリシーっていう駅からメトロの十三番線に乗って、シャンゼリゼで乗り換えて、そこからは一番線で、オテル・ド・ヴィルという市庁舎まえの駅で降りて、ちょっと歩けば会場のポンピドゥー・センター。入り口には今開催中のロイ・リキテンシュタイン展の巨大ポスターが。見にいく時間もないだろうけど、見たいという好奇心も、そんな湧かない。今さらアメリカン・ポップアートなんて、、みたいな気持ちがどこかにあるんだよな、でもそういうのはほんとは、よくないよな、今さら○○なんて、というものの考え方は。

    ポンピドゥーはほんとでかい建物なので、楽屋口までの道のりが長くて、ほんと迷いそう。劇場の裏側ってたいていどこも迷路みたいになっているものだけどけれど、ここはそれがひときわ甚だしい。
    劇場空間は、とてもいい感じ。ぱっと中に入ったとき、YCAMのホールみたいだなって思った。
    昼過ぎから場当たり。そして五時半から、プレス関係者、舞台写真のカメラマンなどが来て、ゲネプロ。本番前、今パリで『三月の5日間』をクリエーションしているという、カンパニー・デ・ルシオルという劇団の演出家ヴァキエさんというかたと、一緒にプロダクションをやっているかわいさんという日本人の方とが、挨拶がしたいと言って楽屋を訪ねてくれた。八時半から本番、『地面と床』パリ公演初日。『現在地』組も見にきてくれた。終演後、ポンピドゥーの近くのお店でレセプション。フェスティヴァル・ディレクターのマリー・コラン、来週の会場ジュヌヴィリエ劇場のアシスタント・ディレクターのニコル・マルタンなど、いろいろな人がいる。上機嫌なおじさんを紹介される。一目置かれている批評家のようだ。とても劇が気に入ったようで、記事を書きたいからテキストを送ってほしいと頼まれる。役者たちにもご満悦なようすで話しかけていて、女優の太ももにおもむろに手を置いたりもしていたので、きっといい評を書いてくれるのだろう。

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  • 平成二十五年十月十日

    • From : Paris

    今回のパリ公演は、二演目やるので、たいへんといえばたいへんだ。今日からジュヌヴィリエ劇場で『現在地』の仕込みが始まる。スタッフは朝からで、役者と僕は昼過ぎから。ジュヌヴィリエにはプラス・ド・クリシーからポンピドゥーにいくのとは逆方向の十三番線に、ガブリエル・ペリっていう駅まで乗る。『三月の5日間』『ホットペッパー、クーラー、そしてお別れの挨拶』『わたしたちは無傷な別人である』に続いて、『現在地』はこの劇場で上演させてもらう僕たちにとって四つめの作品。

    ジュヌヴィリエには大きい劇場と小さい劇場のふたつあって、ふたつはなんとなく背中合わせみたいな関係で隣り合っている。大きいほうで仕込みがすすむなか、役者と僕とは小さいほうのスペース使わせてもらってリハーサル。七月にも九月にも、ちょこちょこと横浜でリハーサルはしていたのだけれども、本番は三月のソウル以来半年以上ごぶさたなので、念のため『現在地』の出演者には早めにパリに来てもらい、現地で数日リハーサルをすることにしたのである。特に、パリ公演から出演者がひとり代わって、石橋志保ちゃんにとってはここが『現在地』デビューとなるので。
    『地面と床』上演と同時並行的に『現在地』のリハーサルをして、ふたつは全然違う作品だなって改めておもった。いや、改めて、ではなくてこんなにはっきりとは初めて気がついたかもしれない。『現在地』はすごく視点の位置が高い。『地面と床』は全然そんなことない。
    最後の場だけはやることができなかったが、冒頭からからそのラストひとつ前のシーンまでそれなりに丁寧に返すことができて、『現在地』リハーサルは五時で終了。『地面と床』関係者は小一時間かけてポンピドゥーまで移動。だけど僕はジュヌヴィリエに残る。今日は七時からラジオに出演することになっていて、スタジオまで送ってくれる手筈になっているから。六時にフェスティバル・ドートンヌの広報スタッフの人が来る。そのひとと一緒にタクシーに。
    僕が出演したのは France Culture というラジオ局の Le RenDez-Vous という番組。「マンガの国のアンネ・フランク」って本を出したフランスの人と僕のふたりがゲスト。とにかく一時間、スピーディーなフランス語でノンストップに、社会の話題文化の話題(この日のテーマは、もちろん日本がらみ)でおしゃべりしまくるというプログラムだった。そのポッドキャストはこれです。
    収録が終わってすぐまたタクシーに乗ってポンピドゥーに向かう。走る車の窓から見るパリはきれいだなと、素直に思う。特に、夜は。開演時間のぎりぎりに、劇場に着いた。『地面と床』パリ公演の二日目。今日はきまぐれに、カーテンコールのとき舞台にあがってみた。でも、客席の階段降りてる途中だったのに、それを役者に気づいてもらえなくて、僕が舞台にたどりついたときはみんなすでに捌けてしまっていたという。。。

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  • 平成二十五年十月十一日

    • From : Paris

    今日も昼間はジュヌヴィリエの小さい方の劇場で『現在地』のリハーサル。とてもいい感じになってきた。字幕のオペレーションを担当してくれる、今はパリにお住まいの村上さんがこの日から参加してくれる。リハーサルは五時すぎで終了。『現在地』にのみ出演の役者のうち数人は、今夜、今テアトル・ド・ラ・ヴィルでやってる『杉本文楽 曾根崎心中』を見にいくのだそう。『地面と床』兼任組は例によってこのままポンピドゥーへ。開演前の時間に、今日の公演を見に来てくれたポルトガルの劇場のディレクターと、建物内のカフェでミーティング。九時から『地面と床』パリ公演の三日目。

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  • 平成二十五年十月十二日

    • From : Paris

    僕は午後イチにジュヌヴィリエに入ればよかったのだけれども、ランチの時間の前に行く。劇場の道向かいのビストロが美味い美味いとスタッフたちから評判なので、僕も食べてみたかったから。しかしあろうことか今日土曜日はカフェっぽい営業しかしない日であるらしく、料理は供していなかった。がーん。なので劇場の脇のケバブの店へ。ケバブが嫌いなわけじゃないけど、でもこれだったら昼食は部屋で作って食べて、それから来たってよかった。

    小さいほうの劇場はきのうで引き上げて、今日からは役者もいっしょに大きいほうで場当たり。音響の調整に念入りに時間をかける。いくつか問題点が出て、それは明日のオフをはさんであさってに持ち越し。この劇場は客席の奥行きがものすごく深い。そして勾配は急。だから後ろのほうのお客さんはとても高い位置から芝居を見おろすことになるけれども、これが『現在地』にはものすごく合ってる。俯瞰する視点の芝居だから。この劇場の芸術監督、パスカル・ランベールが KAAT での初演を見てくれていて、それが今回のここでの公演の大きなきっかけになってる。自分の劇場との相性のよさということまで考えてくれていたのかもしれない。パスカルはついこないだまで日本で芝居をつくっていて、どうやら今はニューヨークにいるらしくて、パリで会うことはできないし、そのうえ僕は日本で彼がつくった芝居『愛の終わり』も見れないのだけれども。
    今日で『地面と床』は千秋楽。四回公演が無事に終わる。これで『現在地』の公演中、太一と矢沢さんにはパリで休んでもらうことができる。撤収作業が終わったのは十二時すぎ。

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  • 平成二十五年十月十三日

    • From : Paris

    今日はオフ。でもせめて午前中は書き仕事がんばる。だってお昼も夜も美味しいもの食べに行くことになってるから。

    パリ在住の方に誘ってもらって、お茶が自慢の中華料理のお店に。ポンヌフとか、サン・ミシェルとかいったこのあたりのエリアには、初めて来た。凍頂烏龍茶をおともに大根餅みたいのとか、豚肉を豆豉で和えたものとかいただく。食事もおいしかったけれども、そのときにした話もおもしろかった。ひとことでいえば芸術と社会の話。ありふれているけれど、いくらしてもしすぎることはないくらい大事な話題。自分だけこの会話に加わってるのがもったいないと思った、あんな人やこんな人にも聞いてほしかった。
    そういや、このお店の僕らのテーブルの斜め向かいのテーブルで食事していた人、たぶんレオス・カラックスだったんじゃないかなと思う。
    このあとコンサートにいくんだけれどもよかったらご一緒に、とさらに誘ってもらったので、のこのこついていくことにする。車に便乗して、僕の好きなパリの車移動。コンテンポラリー・ジャズのコンサートだった。たぶんああいう音楽は、コンテンポラリー・ジャズというのだと思う。
    コンサート会場からホテルまでは徒歩圏内だった。チェルフィッチュの有志で夜ご飯食べにいくことになっていて、実はその待ち合わせ時間がせまっていたのだけれども、ぎりぎりでホテルの到着。そのままモンマルトルの坂をすこし上ったところのイタリアンへ。ここもやっぱりおいしかった。夜は昼とはうってかわって他愛のない会話。別にいいんだけど。でもときどきおもってしまう。きょうの昼ご飯のときにしたみたいな話を、チェルフィッチュに関わってる人たちでご飯食べたりしているときにするようなことってまったくないから、たまにはそういうのがあったっていいんじゃないのかと。でも、そんなことになったためしはこれまで、一度だってない。それは正直、すこしさみしい。でも、しかたないのかもしれない。

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  • 平成二十五年十月十四日

    • From : Paris

    今日からは通勤先は、ジュヌヴィリエ一本にしぼられる。今日も僕は昼時をめざしてジュヌヴィリエへ。今日はビストロに入れた、そして牛肉のタルタルを食べる、おいしい! つけあわせのフリットがたまらんかった。自分のところでつくってるじゃがいもらしい。

    午後イチから音響の問題点の解決法をさぐる。客席の奥行きが半端ないので後部のお客さんのためのスピーカーを足したり、といったいくつかの策のおかげで、とてもよくなった。安堵。夕方からゲネプロ。八時半からは、いよいよ本番。
    楽屋にバラが届いてる。パスカルからのメッセージも。
    『現在地』パリ公演初日。無事にあける。石橋志保ちゃんもしっかり『現在地』デビューをはたしてくれた。でもフランス語の字幕の投影がちょっと暗すぎて、年輩のお客さんには読めなかったところがあったかもしれない。終演後ニコルにその点を訊くと、「問題なかった」との答えが戻ってきた。
    劇場の一階のカフェスペースでレセプション。ニコルが僕のところに来て「やっぱ、字幕見づらかったっていう意見があったわ」と。そのしばしのち、ジュヌヴィリエのテクニカル部長が登場。うちのスタッフたちと、より高性能のプロジェクターを手配することも考慮に入れつつ、あした以降の対策を軽く打ち合わせ。
    ホテルに戻って、おかげさまで初日あけました、的なメールをパスカルに書く。

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  • 平成二十五年十月十五日

    • From : Paris

    今日の夜に僕は韓国の光州に向かうので、ホテルの部屋をいったんチェックアウト。韓国には最低限の軽装備で行く、あとはフロントに預かっといてもらう。

    この日の午前中は、ロンドンでこのあいだ『三月の5日間』をやってくれた演出家のバートランドさんとはじめてお会いして、カフェでお茶しながらしばらくおしゃべり。今度は『ゾウガメのソニックライフ』をやろうと考えてくれているそう。話してておもしろかったのが、イギリスっていうのはいかんせん島国なので、イギリスの人はイギリスのことにしか興味ない、外国のこととか関心がない、という話。イギリス人は自分たちのことをヨーロッパ人とは思ってない、イギリス人だと思ってる、という話。これはこないだダブリンで、まああそこはイギリスじゃなくてアイルランドだけれども、うっすら感じたことでもある。でも、なんだか親近感おぼえてしまうお話しじゃないですか、って別にそんなことで親近感おぼえたくないんだけどさ。バートランドさんはとてもいい人だった。フェスティバル/トーキョーの時期に東京にくるそうなので、そのときの再開を期して別れる。
    そのままジュヌヴィリエに。ニコルとランチする。劇場のむかいの、例のビストロで。来年つくる新作の構想の話を含めた、今後の話。今回の『現在地』の開演時間がすごく変則的になっていて、きのうは八時半だったけど今日は七時半で、あしたは八時半、あさっては七時半、という具合になっているのだけど、これだと時間間違えてくるお客さんじゃいるんじゃないんですか、と訊いたら、いやそれは大丈夫、うちは数年前から曜日ごとに開演時間を変えるという取り組みをはじめてそれは浸透してるから、とのこと。お客さんのなかには早い時間に芝居をみてそれからご飯を食べたりとかしたい人もいるだろうし、その逆のほうがいいと考える人もいるわけだから、ふたつのオプションをつくったのだそうだ。これは、とてもいいアイデアだなあ。
    劇場の楽屋を借りてしばらくのあいだ書き仕事。そのうちスタッフが劇場にぱらぱらとやってくる。字幕問題については、高性能プロジェクター投入という話はなしになったらしい。予算の問題で。なので、字幕を映すパネルの吊り位置をすこし外側にして、舞台面に当たる照明をよけることで改善するということに。五時半にタクシーがくる。シャルル・ド・ゴール空港へ。待ち時間のあいだに、パスカル・ランベールからメールの返事がくる。今はロサンゼルスにいるとのこと。どうでもいいけどパスカルのメールって you を u って書くんだよな、絶対プリンスが好きなんだろうな。二十一時出発の大韓航空の仁川便に乗る。

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